| 【あらすじ】
十一月の第三金曜日、帝都大アメフト部の集まりに、今年も西脇哲朗は参加していた。その帰り、哲朗は元マネージャーの日浦美月と再会する。美月は、男の姿に変貌していた。そして、「自分の心は男だった」「人を殺してしまった」と告白する。殺人の理由は、ホステスの香里をストーカーから守るためだったと言う。
哲朗とその妻で元アメフト部のマネージャー、高倉理沙子は「美月を警察には行かせない」として、自分たちのマンションでかくまうことにする。しかし、美月は迷惑をかけられない、と勝手に出ていってしまった。
哲朗は美月を探すために、性同一性障害のことを調べ、美月と関わりのあった人物に会い、調査を始める。次第に、美月が犯したという殺人事件の真相が明らかになっていった。
【感想】
「性同一性障害」。これは、「金八先生6」を見ていたので、解った気でいたのですが、この本を読むうちに、もっと深いことを知ることができました。とても勉強になったと思うし、戸籍問題のことで、これほど悩む人がいるとは想像もできませんでした。
「金八先生」では、「体や戸籍は女子だとしても、本人が本来の自分だと感じられる男性の姿をすることを認めるべきだ」ということがテーマでしたが、「片想い」は、「男と女はメビウスの輪のようなものであり、グラデーションに例えられる。黒の完全な男、白の完全な女は存在しないのではないか。」ということを伝えていました。
私自身は、完全な白の女ではないと思います。印刷みたいに言うなら、「黒のアミ30%」というところでしょうか。
美月は、声帯を傷つけたり、ホルモン注射をしたり、「自分は男」という主張が強いですが、マフラーを父に編んであげた時の笑顔が女の顔だったり、という場面も出てきます。「黒のアミ50%」…それが本来の美月ではないか、と哲朗らは思います。本人が自分のことをわかっていなかったり、ということもあるようで、簡単に「性同一性障害」と言えるほど問題は単純ではないことがうかがえます。
そもそも、性同一性障害の人間がおかしいのではなくて、戸籍や書類が存在する今の世の中のほうが生きにくいのでは、という人もいます。
「自分らしい生き方」が人間にとって一番なのは誰もが知っていることですが、「自分らしい生き方」を皆ができるために、社会が変わらなければいけないことはたくさんあるのだと感じました。
そして、作品の感想ですが、私は最初、理沙子がかなり嫌な女に思えました。哲朗と理沙子はお互いに仕事を持ち、成功しているのですが、大学時代からの恋愛結婚であったのに、すっかり冷えきった夫婦になっていました。理沙子はカメラマンとして成功していても、家事はしない、煙草は吸う、いつもつんけんした態度を取っている…別に家庭に納まれとは思わないけれど、哲朗に対する態度があまりにもひどくて、自分は嫌悪感を感じました。
しかし、後半は理沙子の優しい面は見えてきます。哲朗はアメフト部でも将来有望な実力の持ち主でしたが、卒業後に辞めてしまいました。その理由を理沙子に対して黙っていたことが、夫婦関係崩壊の原因でした。さすがに、理沙子に同情しました。
物語は、哲朗がアメフト部最後のリーグ戦でミスをした話から始まります。美月の交際関係、戸籍を変えて生活している人の実態とともに、アメフト部が敗退した理由も明らかになっていきます。
自分が最も大切にしている人には、隠し事はしない、弱みを見せる、…これは私自身の教訓にもなりました。何でも言えるからこそ夫婦なのだ、と。
最後は、殺人事件の真犯人が自殺してしまうのですが、エピローグはあっけなかったと思います。美月はいきなり一人でグリーンランドに行ってしまうし、理沙子と哲朗の関係は修復されたのか、よくわからないような終わり方だったのが残念です。それが狙いだったのかもしれませんがね。
|