秘密

         
[出版社]文春文庫
[定価] 629円
[発売日]2001年5月10日

 ◆おすすめ度   :★★★★☆

 ◆せつなさ、哀しさ:★★★★★
 ◆登場人物の魅力 :★★★☆☆
 ◆恋愛描写    :★★★★☆
 ◆緊張感     :★★★☆☆

【あらすじ】

 杉田平介の妻・直子と娘・藻奈美の乗ったスキーバスは転落事故を起こし、直子の体は他界する。藻奈美の体は奇跡的に回復したのだが、意識が戻った人格は直子だった。直子は小学5年生の藻奈美として生活する決心をするが、藻奈美がよみがえったときのために最高の環境を用意すべく、猛勉強する。私立中学に入り、高校も進学校に進むが、平介との溝は深まっていく。平介は、藻奈美の姿をした直子を抱けないことに苦しみ、男子高校生たちと青春を謳歌する直子に嫉妬する。平介が自分の嫉妬心で直子を束縛し、苦しめていたことを反省し、直子は藻奈美として生きていかなければならないことを受け入れた時、小学5年生当時の藻奈美の意識がよみがえった。事故から5年目の冬だった。藻奈美と直子の意識は交互に現れたが、藻奈美の出現が多くなり、高校生活に慣れた頃、直子は平介に永遠の別れを告げたのだ。

【感想】 

 やはり、最後は泣いてしまいました。直子が平介に別れを告げたとき。
 東野氏がユーミン好きらしく、彼の作品には時々ユーミンの曲名が登場します。この「秘密」では「翳りゆく部屋」。知ってますとも。荒井由美時代の曲でマイナーですが、とても切ない名曲で私も大好きなのです。映画では使われたのでしょうか??自分が愛する夫に(お互い愛し合っているのに)別れを告げられたら。その喪失感は計り知れないでしょう。でもこれはまだ序の口で。
 妻は死んでしまったと事実を受け入れてからの9年後、藻奈美の結婚式に平介は「直子は生きている」ということを結婚指輪をきっかけに知ってしまうのです。タイトルの「秘密」とは「直子は死ぬまで平介に知られることなく藻奈美を演じ続けていく」ということなのです。9年間も、これからも夫の前で別の人間を演じ続ける直子の気持ち。直子が目の前にいることをわかっていても、永遠に気づかないふりをしていかなければならない平介の気持ち。直子は平介が気づかないほど藻奈美になりきっており、平介はこれから結婚して家を出る藻奈美を「直子」と呼んではいけないのです。胸がつまります。
 文也に「2発殴らせてくれ」と言った後、拳を振り上げる前に泣き崩れた平介。この後どうなったのか気になるけど、哀しすぎて知りたくないですよね。
 この文也というのは事故を起こした運転手の息子なのですが、藻奈美と結婚するまでの話の流れもよくできていて無理がないです。平介は真相を知ろうとします。なぜ運転手が事故を起こしたのか、なぜ過労働したのか、なぜ今の妻子に内緒で別れた妻子に仕送りしていたのか…。「人を許す」ということもこの作品の要になっているので、かなりおすすめです。
 東野圭吾の小説にたいするイメージが変わりました。せつない作品も書ける秀才だと思います。