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◆せつなさ、哀しさ:★★★☆☆
◆登場人物の魅力 :★★★☆☆
◆恋愛描写 :★★★☆☆
◆緊張感 :★★★☆☆
◆恐怖度 :★☆☆☆☆
◆おすすめ度 :★★★★☆
【あらすじ】
物語は1章と2章に分かれている。
1章ではまず、六本木センタービル(通称ロクセンビル)の社長室で、介護会社社長が撲殺されるまでの話が、いろいろな人々の視点から描かれる。ビルの警備員、窓拭きの青年、秘書…。ここまでは主人公なるものが存在しない。
捜査がはじまる。現場が密室であり、唯一犯行が行なえた人物として、専務が逮捕される。専務の無実を信じた青砥純子という若い女性弁護士(あえていうなら主人公は彼女)が、先輩弁護士からのアドバイスにより、防犯コンサルタントと称する男、榎本怪に相談を持ちかける。
警備員の目、防犯カメラ、嵌め殺しになった窓枠、暗証番号つきのエレベーター…数々のセキュリティをくぐり抜けて犯人はいったいどうやって進入したのか?榎本が推理し、真実を見つけたところで1章が終わる。
2章は、犯人の椎名章からの視点で、倒叙形式で描かれる。椎名章が何者なのか、不幸な過去を描写されるにつれて徐々に明らかになっていく。1章で張られた伏線を交えて、犯行計画が進み、最初に描かれたシーンが再び犯人の視点で描かれる。最後に真相を解明した榎本と青砥が椎名を呼び出し、自首を促したのだ。
【感想】
貴志先生初の本格ミステリー。私は、「密室殺人」とか「トリック」が大嫌いで(だって現実味ないじゃないですか)、人の心理的なものを扱った本こそ素晴らしい、と思っていたのですが、「硝子のハンマー」は抵抗なく読めました。トリックとしては不満もなく(そんなんで人殺せるの?というトリック特有の疑問はありますが)よく出来ています。それは貴志さんの手腕によるものでしょう。
主人公が定まっていないので、感情移入はしにくいのですが、ごく普通の人々が内情を抱えてリアルに描かれていて面白いです。榎本はどうやら本職が泥棒(?)らしく、拘置所経験もありそうです。(具体的に描かれていませんが)そんな自分に罪悪感を感じてか、世間様に顔向けできる仕事として「防犯コンサルタント」と称しているようです。また、「盗みはいいが、殺人はしてはならない」という境界線を自分の中で引いているようで、それが「自分は罪人でない」と安心させる理由であるようです。
ただ、榎本が純子に少なからず心ひかれても、「弁護士とはつり合わない」と言い聞かせている部分や「平気で殺人をする人間は許せない」と思っているのは共感できるのですが、なぜ榎本が「盗みをしても殺人をしたら終わり」なことにこだわるのかをもっと言及してもらえれば、榎本の正義感(?)なるものにもっと共感できたと思います。
それから、純子は「若い美人女性弁護士」という設定のようですが、貴志先生は「自分の作品のヒロインは若い美女でありたい」ようです。でも、弁護士って私の中では「美人がいることがめずらしい」という意識があります。純子にしても「野暮ったいおばさん」みたいなイメージがありました(だって今どき肩パッド入りのスーツって何)。榎本がひかれるのは無理がある感じがしました。恋愛描写をするなら、もっと徹底的にやってほしかったな。ちょっと中途半端だったのは否めません。
榎本が面白いと思ったのは、椎名の奪ったダイヤをどさくさに紛れてホワイトジルコンに変え、「金あるんで食事しませんか?」と純子を誘うところ。くそ真面目な純子にしてみれば、とんでもない男で、でも意外にいいカップルになりそうです。榎本も、もてるタイプの男でもないだろうに、積極的に純子を誘う意外性が良いです。続編出しませんか?=>貴志先生。
1章で、あれやこれやと侵入方法や凶器を調査して優秀に見えた榎本が警察に先を越され、それが恋による思考回路の狂いだったことが判ったりして「おやおや」と楽しめました。榎本が語った真相を読んで、すっかり納得してしまい、「こんなもんか」と思った矢先に、榎本が、「今までの推理が180度ひっくり返るほどの本当の殺人方法」を見つけてしまう。あげくの果てに「今言ったことは忘れてください!!」
そりゃあ、驚きましたとも。えー?今までのは何だったの?と思ったけど、それが逆に快感でした。いい意味で裏切ってくれた。「?」を抱えたまま、2章ではまったく知らない人間の視点からはじまってしまって、でも、やはり貴志は面白い、と言えるどんでん返しでした。
また、貴志作品の特徴は「企業名や商品名をバンバン出すところ」「著者のオタクっぽい一面や趣味が作品に反映されるところ」なんですが、今回もやってくれました(笑)
犯人がネットを使って睡眠薬の売買をするのですが、その指定が「2ちゃんねるの掲示板」なんですよね。もう笑ってしまいました。
東野圭吾の「ゲームの名は誘拐」でさえ、取引は「某掲示板」として実名を伏せていたのに、貴志さんはいきなり「2ちゃんねる」ですからね。しかも「ポエム、詩」版の「ノスタルジックな詩を書こう」のスレッドに書けと、くわしく描写してくれました。ファンなので当然、そのスレ探しました(笑)。実際あるし、そこの住人はポエムファンでなく、ほとんど貴志ファン!きっと先生も覗きにきて喜んでいたに違いない。
貴志先生は勇気ある、というか変わってるんだなーと思いました。2ちゃんねるで自分に対するスレッドは普通見ないでしょう?何が書かれてるかわからないし、変な中傷ばかりだったら傷つきますよ。それなのに、「僕のことが書かれているのは『ホラー』じゃなくて『ミステリー』のカテゴリーなんです」なんて嬉しそうに雑誌のインタビューに答えちゃってました。
犯人の動機って今回はおもいっきり共感できませんでした。ちょっと動機が薄いかな…闇金業者の描写はそれはもう怖くて、怒りも感じたけど、だからこそ、闇金業者の破滅の部分まで読みたかった気持ちがあります。トリックもすごいと思ったし、介護会社の人間に少し共感できました。数年も我慢して真面目に仕事も覚え、あれだけ周到に計画した犯人には同情します。だけど、それだけの能力があるなら、早く弁護士に相談して、まっとうな生き方をすればよかったのに。
作品のタイトルは「見えない扉」にするか「硝子のハンマー」かで著者や編集部も悩んだようですが、私は「硝子のハンマー」で大正解だと思いました。「見えない扉」というのは共感できない犯人の主観を表した言葉なので、タイトルに相応しくないです。物語の最後になって「硝子のハンマー」の意味がわかります。東野圭吾の「秘密」もそうですが、最後になって本当の意味の解るタイトルが私は好きですね。
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